これであなたもアジサイ博士?!アジサイの花色を自由自在に引き出す秘訣と科学的解説その①【知識編】

 




4月の下旬に入り、紫陽花もぼちぼち蕾が上がってきました。しかし綺麗な花を見るためにはまだ仕事が残っています。この時期から開花までの必須作業、花色調整です。
今回は色合いをコントロールするコツと仕組みについて、主に科学的な面から深掘りしていきます。

目次

紫陽花の花色はアルミニウムイオンで決まる


発色の濃淡は品種により違いますが、アジサイの花の色合いそのものは土の酸度によって青〜ピンクまで自由自在に変化します。花言葉に「移り気」とつけられた所以ですね。


色が変わる仕組み


花の青い色素の正体は「デルフィニジン型アントシアニン」と呼ばれる物質です。酸度によって変化し、通常は赤(酸性の時)〜紫色(中性の時)をしています。リトマス試験紙でお馴染みの、あの色です。しかしリトマス試験紙とは違い、アジサイは酸性の土壌の場合に青く、アルカリ性の土壌でピンクに咲きます。

なぜ真逆なのでしょうか。
答えは、アジサイの青はアントシアニン色素そのものの色ではないからです。青色の正体は「アントシアニンにアルミニウムイオンが結びついた金属錯体」によるものです。

アジサイの花は、土中に溶け出したアルミニウムイオンを吸収し体内のアントシアニン色素と反応させることで、初めて青く発色します。よって青く咲かせたければアルミニウムイオンの吸収を増やし、ピンクに咲かせたければアルミニウムイオンの吸収を抑えれば良いわけです。

この吸収量を左右する鍵が土壌酸度(pH)なのです。

実はアルミニウム自体は土中に自然に存在しています。しかしそのままではアジサイは吸収できません。アルミニウムイオンとして溶け出して初めて吸収できるのです。
土壌が酸性であればアルミニウムイオンとして溶け出しやすくなり、アルカリ性であればアルミニウムのまま、溶け出しにくくなります。

上記の仕組みによりアジサイは酸性で青、アルカリ性で赤と言われているのです。

※ちなみに、白い紫陽花はアントシアニンを持っていません。どんな条件下でも真っ白な花を咲かせます。


アルミニウムイオンの吸収量を調節するには?


吸収されるアルミニウムイオンの量を調節する方法は、大きく分けて3通りの方法があります。

①土の酸度(pH)を調整する
②アルミニウムを土壌に撒いて吸収量を直接増やす(青に咲かせる場合)
③アルミニウムイオンと結合しやすい別の物質を土壌に撒いて、アジサイが吸収できなくする(赤に咲かせる場合)

順番に見ていきましょう。


①土の酸度を調整する


ピンクと青、それぞれ色別に分けてお話ししていきます。

ピンクに咲かせたい場合

先述の通り、土がアルカリ性に傾けばアルミニウムイオンは溶け出しにくくなります。アルカリ性の資材として有名なのはやはり苦土石灰でしょう。他にもゼオライト、砕いた卵の殻、サンゴなども有用です。(サンゴはかなり強いアルカリ性ですので、与える量には注意してください)


【注意】

アルカリ性に傾けすぎると、アルミニウムイオンだけでなく他の微量栄養素も溶け出(イオン化)しにくくなります。

具体的には

鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、リン酸(P)

が挙げられます。特に鉄や亜鉛は最も欠乏しやすいです。
そもそもほとんどの植物は弱酸性(pH6.0~6.5)の土壌が最も適しています。この範囲が微量栄養素を一番バランスよくいいとこ取りできるからです。


青に咲かせたい場合

アルミニウムイオンが溶け出しやすいよう土壌を酸性に傾けるには、酸性とされる鹿沼土や強い酸性である無調整ピートモスを混ぜることが有効です。しかしやりすぎは禁物です。酸性に傾けすぎると、今度は窒素過多になったりリン酸が不足しやすくなります。

このように、土壌の酸度調整だけでは限界があるのが事実です。


②アルミニウムを撒く(青色向け)


ではいっそ、土の中のアルミニウムイオン含有量を増やすのはどうでしょう。ミョウバン(硫酸アルミニウム)を土の上に撒けばいいのです。


アルミニウムイオンは猛毒


実は植物にとって、アルミニウムイオンは猛毒です。そのまま根から吸収したら枯れてしまいます。しかしアジサイは一味違います。自身の根からクエン酸を出しアルミニウムイオンをキレート化させて無毒化・吸収する力を持っています。


キレート化(錯体)とは


キレートとは、アミノ酸やクエン酸などの有機物が金属イオンを包み込み「錯体(さくたい)」と呼ばれる安定した構造をとる化学現象を指します。
「キレート」とはギリシャ語で「カニのハサミ」という意味です。特にアミノ酸における錯体化において、アミノ酸が金属イオンを挟み込むように見えることからこの名前がつきました。

クエン酸によるアルミニウムイオンのキレート化の仕組み

さて、今回の本題はクエン酸によるキレート化です。クエン酸(C6 H8 O7 )の構造式は下記のように表せます。




アミノ酸が一本のハサミだったのに対し、クエン酸は3本のハサミ(カルボキシ基といいます)を持っています。

(上の図のクエン酸アルミニウム錯体はかなり簡略化したものであり、化学的に完全に正確ではありません。概念としてご覧ください)


図のように、この3本のハサミが1つのアルミニウムイオンを逃さないよう一斉に囲い込みます。この状態が「クエン酸アルミニウム錯体」です。


アルミニウムイオンが囲い込まれた結果起こること

アルミニウムイオンの周囲がクエン酸でコーティングされるため、他の細胞組織(根の細胞など)を攻撃できなくなります。これが「無毒化」のメカニズムです。


錯体化(キレート化)のもう一つの恩恵

クエン酸のカゴは、水に非常に溶けやすい性質を持っています。 これにより、アルミニウムイオンはアジサイの道管の中を安全かつスピーディーに花部分まで運ばれていきます。



アジサイはアルミニウムイオンを進んで集めている──アジサイのユニークな生存戦略


実はアルミニウムをキレート化させる植物はアジサイだけではありません。
身近なもので代表的なのはチャノキ(お茶の木)、ソバです。この2つはクエン酸ではなくシュウ酸を利用してアルミニウムをキレート化しています。
シュウ酸アルミニウム錯体は、比較的すぐに「沈殿(固まる)」しやすい性質があります。そのため、古い葉に老廃物のように溜め込むのに向いています。

チャノキやソバと比べ、アジサイは「キレート化して吸収したアルミニウムを自身の花色を変える材料として有効活用している」という点において非常にユニークです。

シュウ酸錯体と違い、クエン酸錯体は結合が非常に強く、液中で安定して存在し続けます。根から一番遠い花まで、鮮度を保ったまま(反応性を残したまま)アルミニウムを届けられるのです。さらに、本来毒であるはずのアルミニウムを体内に蓄積させることで、外的から身を守る盾にも用いていると考えられています。見た目だけではないのです。

このように、毒であるアルミニウムを仕方なく無毒化しているのかと思いきや、アジサイは積極的にかき集め利用しているのです。


余談|クエン酸とミョウバンを混ぜて与えたらどうなる?



キレート化したアルミニウムイオンが必要なら、クエン酸とミョウバンを水に溶かして与えたら良いのでは?と考えるかもしれません。確かにクエン酸・水・ミョウバンを混ぜると、キレート化したアルミニウムイオン(クエン酸アルミニウム錯体)を作ることができます。しかし残念ながら、この方法で青く発色させるのは難しいと考えています。理由は2つあります。

1.クエン酸とミョウバンの水溶液の酸度がもたらすアントシアニンの反応

クエン酸にミョウバンを溶かした液体は、非常に強い酸性を示します。アジサイに直接道管から吸わせたり根に過剰に与えたりすると、細胞内のpHが急激に下がります。アジサイにしたらストレス以外の何物でもありません。

さらに言えば、アジサイの中で起こるデルフィニジン型アントシアニンの反応は非常にデリケートです。刺激の強い酸性の液体を吸収させると、アルミニウムイオンと結びつく前に、リトマス試験紙よろしく赤色に変色してしまう可能性が高いです。

2.アルミニウムの「不溶化」

実はクエン酸とアルミニウムは、pHが低すぎると(酸性が強すぎると)逆に結びつきにくくなるという性質を持っています。

pH 3.7〜4.5(弱酸性〜酸性)
非常に安定して錯体化する
pH 3.0以下(強酸性)
錯体が安定しない

これにより、せっかく与えたアルミニウムイオン錯体を吸収できないどころか、土壌そのものを強い酸性に傾け、自前のキレート化まで邪魔をしてしまうことにつながるのです。

以下に、切り花のアジサイにアルミ箔を入れたクエン酸水を吸わせた実験の様子が載っています。この実験では赤色に発色しています。



③ アルミニウムイオンと結合しやすい別の物質を土壌に撒く(赤色向け)


アルミニウムイオンは、クエン酸以外の他の物質と非常に結びつきやすい性質を持っています。これを利用して、土の中でアルミニウムイオンを「他の物質で捕まえて固めてしまう」というのが、赤色に咲かせるためのもう一つの戦略です。

ここで登場するのが、肥料の三要素の一つである「リン酸(P)」です。 アルミニウムイオンはリン酸と出会うと非常に強固に結びつき「リン酸アルミニウム」という物質に変化します。
リン酸アルミニウムになると、水に全く溶けない状態になって土に固定されます。アジサイがクエン酸を出しても、石のように固まったアルミニウムを吸い上げることはできません。

他にもある、アルミニウムとアジサイのお邪魔虫たち

リン酸以外にも、フッ素、ケイ素などはアルミニウムイオンとの相性抜群ですので、アジサイによる吸収を妨げます。


まとめと次回予告


土壌環境とアジサイの花色の関係は非常に繊細です。どれか一方を取るのではなく、複数を組み合わせて行うことで、効率的に花色をコントロールできます。特にミョウバンを撒くのは今が適期です。青色に咲かせたい紫陽花をお持ちの方はぜひ挑戦してみてください。

次回はいよいよ実践編です!赤青の色別で美しく発色させるためのやり方を深掘りします。お楽しみに。


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