アジサイの芽吹きの早さを決めるのは温度だけではなかった

2026/04/15


前回から引き続き、芽吹かない紫陽花の芽のお話です。観察する中で新しく分かったことを踏まえ、より詳しく原因を探っていきます。



目次



I冬芽のその後の経過



ヒメアジサイの冬芽

悲しいことに、あれから四つの花芽有望な芽が折れて失くなってしまいました。うち2つは長雨のあとぐらついていたのを触ると簡単に取れてしまい、残り2つは強風に煽られ鉢が倒された時に折れ、どこかへ飛ばされてしまいました。触ってみて折れたものは付け根が腐っているようでした。こちらが実物の写真です。

2026/04/03

もう一個の芽

付け根は完全に腐っている

中を割ってみると緑色をしています。芽そのものは生きていたのがわかりますね。この時点で花芽らしきものは目視できませんでした。

この観察結果から分かるのは、少なくとも組織は生きて活動しようとしていたが、通水が不十分なまま気温だけが上がり、長雨による蒸れで芽の付け根が先に組織崩壊を起こした、ということです。

2026/04/24 全体の様子




ホンアジサイの冬芽


下の方から吹いた芽がだいぶ大きくなってきました。蕾も確認できる芽が増えてきました。

2026/04/24

全体的に、乾燥して縦にシワが入った枝が日に日に元のスベスベした感触に戻ってきています。しかし芽は依然としてわずかに開きかけたまま、動きはありません。

2026/04/24


【参考】近所のホンアジサイの様子



地際から新しく芽吹いた枝にはいくつか蕾が見られますが、古い枝はやはり同じような状態です

2026/04/15


株元が芽吹いたタイミングで動きのなかった芽は茶色いままです。この枝からは今年の花は見られないのでしょうか。


ヤマアジサイ(瀬戸の月)の冬芽


同様に根元からは芽吹いてきましたが、先端の芽には全く動きが見られません。わずかに枝の途中に芽吹きが見られた枝はスベスベした感触に戻りつつあり、他の多くの枝はまだ乾燥してシワシワな感じがします。

2026/04/24

一方でスベスベした枝の範囲は日に日に広がっており、そのような枝についた芽は少しだけ緑色を取り戻しています。




II原因は何だったのか


結論から申しますと、今回の冬芽が乾燥して芽吹かない症状は

冬場の水切れ

が最も大きな原因であるとわかりました。上記を踏まえ、どのようにしてこの結論に至ったか考えていきます。



2026春現在の水やり

これまで生育期は、硬質赤玉土と腐葉土メインだった時は表面が完全に乾いたら水をやっていました。一方で焼成赤玉土、超硬質鹿沼土、腐葉土メインの今回は、表面が乾きかけた頃にはもう萎れ始めるので慌てて水をやっています。



2025-2026冬の水やり

落葉期の水やりはスリット部分から見える土が乾いてから約3日後を目安に水を与えていました。しかし2026年芽吹いて以降の様子を鑑みると、これが全く足りておらず根を痛めていた可能性が高いです。


潤いを失いシワシワだった枝がスベスベに戻った変化の正体

先に「芽は展開しないが枝の感触に変化があった」と述べました。これについて関連しそうな、面白い論文を見つけました。

論文の表紙イメージ
冬季における樹木の生理生態 - 東京大学大学院農学生命科学研究科
冬季の凍結や乾燥が樹木の通導機能に与える影響や、エンボリズム(塞栓)の発生と解消のメカニズムについて詳述された学術資料。

こちらの東京大学の論文には、冬から春にかけての樹木類の活動について記されています。アジサイ専門に書かれたものではありませんが、気になる単語がありました。


エンボリズム


という言葉です。


エンボリズムとは


植物は根から葉先まで張り巡らされた管(道管・仮道管)を通して水を引っ張り上げています。寒さのために内部の水が凍結融解を繰り返したり、著しい水切れに曝されると、この水の道に気泡が生じてしまいます。これにより吸水が途切れる状態をエンボリズムと言います。ほとんどの落葉広葉樹は落葉期にエンボリズムに陥り、同時に春になって活動を再開するにつれ回復する能力を持っています(塞栓の再充填といいます)。一方で許容量以上のストレスに曝された場合、回復することはできません。

論文内では、落葉期にエンボリズムに陥った落葉樹の道管を輪切りにしたところ、同じ植物が5月頃に回復したところの比較画像が載せられていました。冬季には水の通りがほとんどなく枝の輪郭もシワシワだったのに対し、5月ごろには円形に近い綺麗な輪郭に戻り、水の通りもほぼ元通りに回復していました。


この「エンボリズムの回復」という現象こそ、まさに今私が目の当たりにしているものに違いありません。つまり、アジサイを早く芽吹かせるには、気温だけでなく冬場に十分な水が与えられており、エンボリズムが軽度・回復が容易なレベルである、ということが必要になってくると考えられます。

「春に新芽が吹くにはある程度の水が必要」

一言で言ってしまうとこういうことですね。当たり前といえば当たり前なのですが、今まで気温ばかりを重視し、休眠期の水の量にそこまで注目していなかったので思いつきませんでした。

水分の重要性を改めて理解したところで、

2024-2026年の1月-2月の東京の平均最高気温・平均最低気温・平均湿度・月間降水量

を調べてみました。


年月 2024年 1月 2024年 2月 2025年 1月 2025年 2月 2026年 1月 2026年 2月
平均最高気温 11.4℃ 12.0℃ 10.3℃ 10.9℃ 10.1℃ 10.5℃
平均最低気温 2.1℃ 3.3℃ 0.9℃ 1.8℃ 1.1℃ 2.0℃
平均湿度 46% 51% 45% 48% 44% 47%
月間降水量 26.0mm 104.5mm 38.5mm 62.0mm 41.0mm 55.5mm

※データ出典:気象庁(東京都 東京)

以前作った表にもある通り、2024年(暖冬)の紫陽花は2月末には芽吹いていました。2026年は同じく暖冬であるにもかかわらず、我が家の紫陽花も近所の地植え紫陽花も芽吹いたのは4月以降です。2023年と2026年の大きな違いは、圧倒的な降水量の少なさと湿度の低さです。この記録からも、冬場の水分供給量と芽吹く早さに一定の相関があることがうかがえます。

そして我が家のヒメアジサイの枝がいつまでもシワシワしているのは、エンボリズムからの回復力が特に弱いからだと考えられます。ヒメアジサイ含むエゾアジサイ系が冬の寒風に弱いというのも、こういった性質が関係しているのではないでしょうか。



IIIなぜエゾアジサイ、西洋アジサイだけが問題なく芽吹いたのか


一つ気になっていることがあります。本来最も冬害の影響を受けやすいはずのエゾアジサイ(雪てまり)と、例年なら最も芽吹きが遅いはずの西洋アジサイが、同じ焼成赤玉土と超硬質鹿沼土を使っているにも関わらず問題なく、しかも比較的早く芽吹きました。これについて考えてみます。


まず雪てまりについて。4号スリット鉢という小さいサイズに植わっている上マルチング材を使用していませんでした。格段に乾きやすいことがわかっていたので、スリットから見える土が乾いたらすぐに水をやっていました。

2026/04/24現在 今年の蕾は見られなかった


次に西洋アジサイですが、こちらは秋にコガネムシの幼虫に根を全滅させられたので元々水を取る力が弱いと考えていました。よってスリットから見える土が乾いたら2日後には水をやっていました。

上記のことから、エゾアジサイ・西洋アジサイが冬害を受けなかったのは、この2種だけに十分な水やりがあったからだと考えられます。


もう一つ、主にヤマアジサイで考えられるのは、枝が細い品種だからという理由です。

論文にもあるように、道管が細く組織が密な方がエンボリズムに強く回復しやすいからです。道管が太いほど一度に運べる水の量は多いですが、凍結時の気泡も大きくなりやすく、結果としてエンボリズムに弱くなります。



IVまとめ|今後の方針


焼成赤玉土と超硬質鹿沼土は、元々桜の挿し木苗を育てるために導入したものでした。桜に対してはぴったりでしたが、残念ながらアジサイにはやや不適であるという結果になりました。これは何も用土の種類や配合比率だけの問題ではなかったと考えています。というのも、挿し木以外での鹿沼土の導入も初めてだったからです。


今後の方針としては、開花時期を迎えても変化がない枝は枯れていると思われるので、(ヒメアジサイ以外は)地際からばっさり切ってしまう予定です。

幸か不幸か、ホンアジサイ・瀬戸の月はちょうど育て始めて3年目ということで、強剪定による株の更新にぴったりな時期ではあります。幸い何とか吹いてくれた芽の多くは蕾が上がりました。

2026/04/24 ホンアジサイ

2026/04/24 瀬戸の月

一回り小さくはなりますがお花も見られそうで一安心です。ヒメアジサイだけはまだ小さいので、頂芽が芽吹かなかった枝でも脇目が吹いてくればその部分までは残します。

土については、当面は水やりの頻度を増やすことで対応し、花後にあたる6月半ばになったら

硬質赤玉土:超硬質鹿沼土 2:1  

の割合に変えてみようと思います。手元にある超硬質鹿沼土は、手触りでの硬さは普通の鹿沼土とさほど変わりありませんでした。元々使っていた硬質赤玉土に混ぜる程度であれば、水持ちもほとんど変わらないだろうと考えています。


桜用に買った焼成赤玉土と超硬質鹿沼土が沢山あって勿体ないから、そして同じ土を使った方が水やりのタイミングが揃いそうだから──という理由で試しにアジサイにも導入してみたわけですが、なかなか現実は思い通りにいきませんでした。

そもそもhydrangea(水の器)の名を持つアジサイにこれらの土を使おうとする人はそういないでしょう。もしかしたら小粒以下のサイズなら焼成赤玉土でも栽培が可能なのかもしれませんが、ひとまずアジサイに関しては硬質赤玉土メインに戻すことにします。

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