紫陽花の新芽が縮れたら要注意「見えざる脅威」ホコリダニとの死闘

 


紫陽花をベランダで育てる上で、私が最も脅威に感じた存在はなんだと思いますか?

肉眼では決して見えず、たった1週間で数倍に増殖し、柔らかな新芽を無惨に縮れた姿に変えてしまう力を持っています。

正体は体長0.2~0.3mm程度のちっぽけな虫です。そう、虫。聞くところによると、彼奴はクモの仲間なのだと言います。


正式名称:Polyphagotarsonemus latus (Banks) 


通称、チャノホコリダニ


「え?何その虫?聞いたことないよ」

「ハダニの間違いじゃないの?うちは関係ない」


今回の話題はこんな方にこそ知ってほしいお話です。

もしかしたら、あなたのお宅の植物もすでに加害されているかも?


目次


見えざる敵「チャノホコリダニ」のもたらす被害

ハダニと同じくダニ類であるこの生きものは、植物の若く柔らかい葉の裏に寄生し吸汁します。被害を受けた新芽は成長できなくなり歪に縮れ、やがては成長点そのものまで枯れ込む「芯止まり」という症状を引き起こします。

ホコリダニの吸汁によって植物が枯れることは基本的にありません。しかし成長や結実に大きな影響を及ぼすのも事実です。

そして旧枝咲き紫陽花に於いては「前年に伸びた充実した枝の先」に花芽を付けるため、来年の花付きに関わる甚大な被害となりうるのです。


栽培1年目にして直面した「謎の症状」

紫陽花の栽培を始めた1年目の花後のことでした。剪定した後に膨らんでいた脇目が一向に大きくならなかったのです。

上がってきたばかりの新芽が不自然に開き、内側に丸まり、裏返っている様子

新芽が硬くなり不自然な光沢を放っている

初めはヤマアジサイでした。次に西洋アジサイ、ホンアジサイへと被害は広がっていきました。




「夏」「紫陽花」「葉」「縮れる」

これらのワードを検索して出てきたのはいずれもハダニの記事でした。確かに「高温で乾燥した環境」であり、水圧が強めのシャワーを当てると改善が見られることから「水に弱い」という性質も合致していました。よって当初はハダニだと考えていました。

一方で腑に落ちない部分もありました。ハダニは体長0.3〜0.5mmであり目に見えるはずで、主な症状は「下の方の古い葉を中心にカスリ状に色が抜ける」というものでした。

対して私が直面していたのは「新芽が硬く萎縮する」という全く異なる症状で、寄生場所である葉の裏をいくら観察しても、虫らしきものは見当たりませんでした。

手持ちのベニカネクストがハダニに適応があることに気付き2回ほど散布してみましたが、全く効果はありませんでした。

インターネットをいくら検索すれども納得する情報は見つからず、しかし指を咥えて見ていても悪化の一途を辿ることは自明の理です。

どうしようもないので、毎日紫陽花をお風呂場に持ち込み、ひたすら葉裏にシャワーを当て続けるという生活が始まりました。

3日目くらいで明らかな改善が見られ、しかしそこで止めると翌日には復活してしまい、結局丸一週間連続で水責めをし続けようやく正常な新芽が展開を始めました。そうしてなんとか持ち直した頃には9月に入ろうとしていました。

努力の甲斐あって新枝は多少伸びたものの、節間が非常に短く不安なまま落葉を迎えました。

幸いにも翌年は無事にほとんどの枝が花を付けてくれました。ほっとしたのも束の間、花後の新芽にまたあの症状が。

「もう勘弁して⋯⋯!」と思いつつ、またもやお風呂場に持ち込み&シャワー生活が始まりました。

正直なところ、大変すぎて心が折れかけていました。だって株元から枝先まで、新芽の付いている箇所は残らず、しかも葉の裏を中心にシャワーを当てなければならないのです。土はこぼれまくり、流すわけにもいかないので排水溝の掃除はセット、しかも季節は真夏です。水道代だってバカになりません。

いよいよ脳死で作業するのにも限界が来て、「これ本当にハダニなの?」という疑惑が膨らんでいきました。


ようやく判明した「謎の正体」

再びネット検索に没頭し、ふと「紫陽花」というワードを抜いて検索してみました。するとチャノホコリダニという害虫の駆除に関する記事が出てくるではないですか。

「チャノホコリダニ⋯⋯?聞いたことないけど」

と思いつつその記事を読み進めると、なんとうちの紫陽花そっくりの症状の写真が出てきたのです。「新芽がくちゃくちゃに縮れ成長が止まる」という、まさに全く同じ症状でした。

「これは⋯⋯!」と思った私はチャノホコリダニに適応がある薬剤「コロマイト乳剤」をすぐに注文しました。

一方その頃紫陽花はどうなっていたかというと、前述の水責めによりほぼほぼ回復していたものの、一部疑わしい箇所が残っている、という状況でした。

早速届いた薬剤を散布してみたところ、症状はピタリと止みました。

新葉が綺麗に展開し始めたヤマアジサイ

私を長らく苦しめていたものの正体、それはチャノホコリダニだったのです。


紫陽花につくホコリダニに有効な薬剤

現在私が使用し、紫陽花への効果を実感できた製品について以下にまとめます。化学系殺ダニ剤3種類(コロマイト乳剤スターマイトプラスフロアブルモレスタン水和剤)物理系展着剤1種類(サフオイル乳剤)を使用しています。


系統名 (IRAC) 有効成分 薬剤の例 特徴と注意点
マクロライド系
(6)
ミルベメクチン コロマイト 卵〜成虫まで全ステージに有効。速効性が高いが残効性は低い。
ピラゾール系
(25A)
シエノピラフェン スターマイト 既存薬に耐性がついた個体にも有効。効果の持続性(残効性)に優れる。
ピリジン系
(21A)
ピリダベン サンマイト 非常に速効性が高く、成虫だけでなく卵や幼虫にも効く。
キノキサリン系
(UN)
キノメチオナート モレスタン 殺菌・殺ダニ剤。うどん粉病も同時に叩ける。※高温時の使用は薬害リスクが高いため要注意。
物理作用系
(物理)
調合マシン油 サフオイル 物理的に窒息させる。他剤との併用で効果を高めるが、ホコリダニには補助的。
メッツ系
(20B)
アセキノシル カネマイト 幼虫・成虫に強い。四つめの化学系薬剤として現在導入を検討している。


化学系はローテーションして使うので、少なくとも3系統は揃えることをおすすめします。

特にコロマイトはホームセンターで手に入りやすく、少量サイズの30mlはお求めやすい価格なのでおすすめです。


実践編

必要なお薬を揃えたら、一刻も早く被害を受けている植物を助けてあげましょう。


ホコリダニ根絶へのステップ:進行度によって分かれる2つの攻め方


戦略A:発生初期(被害が一部の新芽に留まる場合)

※「早期発見・早期殲滅」が大前提です。
日頃からよく観察しましょう。

  1. 1回目: 3種のうち、いずれかの薬剤を散布。

  2. 1週間後(2回目): ホコリダニの世代交代に合わせ、2種類目の薬剤を散布。

  3. 観察: さらに1週間様子を見ます。

    • 新芽が正常に戻れば、ここで終了。

    • 少しでも怪しければ、3種類目の薬剤を躊躇なく投入します。


失敗しないための使用上の注意

  1. 薬剤は乾いてから初めて効果を発揮します。夏場であっても完全乾燥には少なくとも2時間は必要です。途中で雨に流されるといったことがないよう、よく晴れた日の午前中に散布しましょう。
  2. 同じ系統の薬剤はワンシーズン(一年)に一回しか使えません。二回以上使うとダニに抵抗性が生まれます。むやみな乱用は禁物です。
  3. 真夏の高温時は薬剤が乾く過程で濃縮され、葉を焼いてしまう薬害のリスクが高まります。希釈量は目分量ではなく、スポイトや計量カップできっちり計り、絶対に規定より濃くならないようにしましょう。


戦略B:深刻な事態(全ての新芽が萎縮し、成長が完全に止まっている場合)


すでに大量発生し密集しすぎた状態には、いきなり薬を撒いても100%駆除するのは不可能です。薬剤のかけ残しが発生したり、運のいい耐性持ちが生き残ったりして、すぐに復活してしまいます。

そうなれば散布した薬剤の耐性持ちの個体が大量増殖という地獄ルートへまっしぐら。これだけは絶対避けたいところです。

まずは物理的に数を減らす「削り」の作業から入ります。

  1. 物理水責め(5日間): 強めのシャワーで新芽を毎日洗い流します。これで個体数を減らし、被害を受けた株の息を吹き返させます。

  2. 最終決戦(薬剤散布): 新芽の成長に勢いが戻ったのを確認したところで、戦略Aのステップ(ローテーション散布)を開始します。



なぜこんな回りくどい手順を挟むかといえば、できるだけ化学系の薬剤の使用を避けたいからです。なんせ一種類につき年に一回しか使えませんからね。毎度生き残られていては薬剤の種類がいくつあっても足りません。 


私は今のところ3種類でやりくりしていますが、正直もう1種類は揃えたいなと感じています。 

年々猛暑が酷くなる昨今、高温で爆発的に増えるホコリダニの対処の難易度は上がってきています。



【余談】展着剤(サフオイル乳剤)のホコリダニへの効果

 昨年、サフオイル乳剤という製品を導入してみました。これは展着剤にカテゴライズされる殺ダニ剤で、ダニの気門を塞ぎ物理的に窒息させる仕組みです。先に挙げた農薬と違い物理的なアプローチですので、耐性がつく心配はありません。

実際に使ってみた感想としては、ハダニには一回の散布で高い効果を感じたものの、ホコリダニに対しては何度試しても増殖を少し抑える程度の効果しか感じられませんでした。 

ホコリダニはハダニよりもさらに小さく、新芽の極めて奥深い隙間に潜り込んでいます。そのため、油の膜で覆うよりも、強めの水圧シャワーで物理的に叩き出す」方が、圧倒的に有効ではないかと考えています。

株数が多すぎて全ての鉢をシャワーできない場合、展着剤は弱らせる選択肢としてはアリですが、基本はやはり「物理的な洗浄」に軍配が上がります。


まとめ:農薬を手にし、命と向き合う覚悟

昨今「有機」「オーガニック」「サステナブル」といった言葉がもてはやされ、これらの単語を冠した青果物が店頭によく並ぶようになりました。実際よく売れている印象でしたし、思い返せば私自身「有機」「無農薬」などと書いてある方を無意識に優先して物色していました。

そんな日々のなか園芸に目覚め、図らずも農薬そのものに触れる機会を経た今、農薬を使わず一定の品質を保った農作物を育てることがどれだけ困難か痛感しています。

同時に、これらの言葉の正当性に疑問を抱くきっかけにもなりました。例えば今回紹介したコロマイトに関して、原材料が天然由来成分であることから「有機」を名乗れるそうです。しかし虫を殺す「農薬」であることに変わりはありません。

「有機だから安全」「オーガニックだから良い」と短絡的に判断するのは、もしかしたら危険なことなのかもしれません。

いずれにせよ、美味しく見栄えの良い農作物が手軽に食べられる今の環境には、深い感謝と尊敬の念を抱くほかありません。

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